『月刊群雛』2015年10月号には、米田淳一さんの小説『ああっ、香椎2尉!』が掲載されています。これはどんな作品なんでしょうか? 作品概要・サンプルとインタビューをご覧ください。
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作品概要
ああっ、香椎2尉! ‐プリンの楽しみはドローンとともに‐
そう遠くない未来。
日本連合艦隊・香椎のりこ2尉に朝が来た。
彼女は毎朝、乗り組む母艦〈ちよだ〉の停泊する、この新淡路基地で走り込みをする。
基地は22世紀日本の新首都・新淡路市に隣接していて、その雲を貫いて空に伸びる巨大環境建築の立体区が、間近に大迫力で見える。
「今日もプリン、私のプリン、毎日プリン、私の幸せ、私の希望、私の生きるヨロコビー」
そう歌いながらの基地外周道路の走りこみ。彼女にとって、夕食後のプリンはほんとうに楽しみなのである。
いつものように、個人空調や防弾防刃防炎機能をもったレオタードスーツ姿で走る。
そして基地ゲートで引き継ぎまでもうすぐの門衛の隊員に声をかけたあと、いつも使っているアウトドア用の携帯端末のスクリプトを使う。
『宅配のお知らせ・神戸屋・秋の新作特製プリン:発送完了。状態:現在配達ドローンでお届け中』
空を見上げると朝の基地宛の宅配ドローンが列をなしている。
「まず、確実に受け取れるわね。よかったー。この秋の新作特製プリン、予約瞬殺だったもん。でもドローン宅配は早いけど、基地の中で受け取るにはセキュリティチェックに時間かかるのよね。とはいえ人間が配達するのは大変よね。大昔はやってたらしいけど……あれ、私ナニ独りごと言ってるんだろ?」
ドローンたちは、朝の風を受けながら、壮大な高層建築を背景に、黙々と空を飛んでいる。
*
母艦に戻ると、主整備室では、女性型女性サイズ戦艦・シファとミスフィが朝のチェックを受けている。
「おはようー!」
とミスフィに朝の挨拶をすると、彼女は無言で微笑む。彼女はかつては言葉を話せたのだが、今は話さない。いつもメッセージを送るか、電子音で合図だけする。言葉を話すのが怖いらしい。それが一層彼女を神秘的に魅せる。
だが、そんなミスフィは、クールに笑うと、整備用のベッドから降りて、香椎に近寄ると、いきなりその顎を取ってキスをした。
見ているシファも整備員たちも目を丸くしている。
「もうっ、朝から刺激強すぎッ! なにやってんのッ!」
チェックに立ち会うこの戦闘隊の作戦幕僚・戸奈実3佐が真っ赤になって怒る。
「いや、シファとミスフィは女性型女性サイズ戦艦だから。これ、女性同士、人間同士じゃないから」
香椎は顔を赤らめてちょっと恍惚としながら、ミスフィに代わって言い訳をする。
「でも図がアブナイでしょッ!」
「それは古い考えです!」
「古くありませんッ!」
言い合いになるが、みんな笑っている。
※サンプルはここまでです。
米田淳一さんインタビュー
―― まず簡単に自己紹介をお願いします
YONEDENこと米田淳一(よねた・じゅんいち)です。『月刊群雛』ではいつもお世話になっております。
SF小説『プリンセス・プラスティック』シリーズで商業デビューしましたが、自ら力量不足を感じ商業ベースを離れ、シリーズ(全14巻)を完結させパブーで発表中。他にも長編短編いろいろとパブーで発表しています。KindleストアやBCCKSでもがんばっていこうと思いつつ、現在事務屋さんも某所でやっております。でも未だに日本推理作家協会にはいますし、また、鉄道模型なんかを作るモデラーなこともしてます。
ちなみに『プリンセス・プラスティック』がどんなSFかというと、1997年に発表した女性型女性サイズの戦艦シファとミスフィが要人警護の旅をしたり、高機動戦艦として空や宇宙をびゅんびゅん飛び回る話です。というわけで艦船好き女の子好きです。
◆公式サイト:『モデラー推理・SF作家米田淳一の公式サイト・なければ作ればいいじゃん・2nd』
―― この作品を制作したきっかけを教えてください
3DCG制作ソフト「Shade」で作ってきたキャラクターの一人、香椎2尉(自衛隊式の階級名で、一般的には中尉)のことがあまりにも好きすぎるというのもありますが、それ以上に自分の勉強のため、とある資格試験の勉強をしていて、ああ、こういう技術があるなら、未来はきっとこうなるだろうな、と強く思ったのが動機です。そして、その内容をどこまで『群雛』通常読切作品枠に詰め込めるかにチャレンジしてみたい、とも思いました。
―― この作品の制作にあたって影響を受けた作家や作品を教えてください
もうあまりにも多くのものがすっかり頭のなかで溶け合ってしまいました。強いて言えば士郎正宗・藤島康介といった80・90年代のコミック作品の世界観の影響が強いと思います。
―― この作品のターゲットはどんな人ですか
前項のとおりなので、必然的に80・90年代に高校生だった人たちがコアだと思いますが、こういう世界の話は波及して今でも時折見かけますので、その周辺からさらに広い範囲がターゲットになると思います。
―― この作品の制作にはどれくらい時間がかかりましたか
例によってモチーフを得て描き上げるまではほんと2日ぐらいで書き上がりましたが、調整に次ぐ調整、そして9月号の募集のタイミングに合わずに1カ月待ったのでさらに調整、そして10月号の募集に間に合ったのはいいけれど、そこから例によってまた調整と迷走が続きました。結果しっかり2カ月かかってしまいました。
―― 作品の宣伝はどのような手段を用いていますか
この作品と平行して書いている女の子だらけの鉄道研究部の話『鉄研でいず』では、Twitterの活用を実験的に行いました。作品の宣伝よりも作品世界、さらには作者である私というものの個性を打ち出して共感を得る方向でやってみています。
面白い作品は面白い作者から、というのはよく言われていますので、「まず面白い作者となること」を意識して、趣味の模型ブログとも連携して演出しています。
その成果の数字はまだ恥ずかしいのですが、当社比(?)でなかなか効果あるかもです。
―― 今後の活動予定や目標を教えてください
現在勝手にブログで毎号の『群雛』レビューをしてまして、それをまとめて『雛の四季報』というレビュー誌を勝手に『群雛』とは独立した運営で発刊しました。
目下『群雛』のレビューをすることで自分の技量の確認と研鑽をするとともに、『群雛』自身との共存共栄を考えています。ここにその『四季報』の話を書いて、独立性が保てるのかという自問自答はありますが、そこは大めに見ていただくということで。
ともあれ、がんばって『四季報』の2号が出せるように、レビュー活動を続けていきたいと思っています。面白い話で世界が満ちていくのは嬉しいことですし、その助力ができることも私にとっては光栄なのです。
とくに次号の『四季報』で、前回の『四季報』では成し得なかった全掲載作家レビューをやろうと準備中です。
―― 最後に、読者へ向けて一言お願いします
今後とも『プリンセス・プラスティック』と『鉄研でいず』と『雛の四季報』をよろしくです。
読んでくれればなんだってできるのが書き手というものですので、ほんと、他の方のも、ぜひお読みください。そして、私の他の方にも、すこしでも感想を。プリーズ!
米田淳一さんの作品が掲載されている『月刊群雛』2015年10月号は、下記のリンク先からお求め下さい。誌面は縦書きです。
インディーズ作家よ、集え!
NPO法人日本独立作家同盟は、文筆や漫画など自らの作品をセルフパブリッシング(自己出版)している方々の活動を応援する団体です。コミュニティ運営、雑誌『月刊群雛』の発行、セミナーの運営などを行っています。
http://t.co/fGhoghLQ0R
— NPO法人日本独立作家同盟 (@aia_jp) 2015, 8月 20
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